一橋大学創立150周年記念シンポジウム/非財務情報を企業価値に結び付けるサステナビリティ経営の実践

2025/09/01

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去る7月28日に一橋大学創立150周年記念として、経営管理研究科主催、一橋大学CFO研究センター共催、EY JAPAN株式会社の協力により、「非財務情報を企業価値に結び付けるサステナビリティ経営の実践」をテーマに、千代田キャンパスに併設する一橋講堂にてシンポジウムが開催されました。日本ではコーポレートガバナンスコードの改訂などを契機として、サステナビリティ経営が徐々に浸透しつつありますが、一方で、近年では欧米を中心にESGバックラッシュと呼ばれるようなサステナビリティ経営に対する逆風も強まっています。そうした逆風を乗り越え、持続的にサステナビリティ経営に取り組むにあたって重要となるのは、サステナビリティ経営を通じてもたらされる非財務インパクトを適切に測定・評価し、それを企業価値に結び付けることです。このシンポジウムは企業担当者、金融市場関係者、コンサルタント、研究者による講演や討議を通じて、参加者の皆様にそうした取り組みをめぐる課題や今後進めるべき取組みについて理解を深めていただくことを目的として開催されました。

冒頭、本学経営管理研究科長の福川裕徳教授より開会の挨拶があり、第一部では加賀谷哲之教授(経営管理研究科)の基調講演と、株式会社日本総合研究所フェローで一般社団法人鎌倉サステナビリティ研究所特別顧問の足達英一郎氏の基調講演がありました。第二部では企業の実務責任者、機関投資家をお招きして、パネルディスカッションが行われました。閉会の辞として、EY Asia East / Japan クライアント・アンド・インダストリー・リーダー EY Japan チーフ・サステナビリティ・オフィサーの早瀬慶氏よりご挨拶がありました。当日は241名の方にご参加いただき、一橋大学創立150周年記念の盛大なシンポジウムとなりました。

プログラム

開会の辞

福川裕徳教授(経営管理研究科長)

基調講演①

「非財務情報を企業価値に結び付けるサステナビリティ経営の実践」/講演者 加賀谷哲之教授(経営管理研究科)

基調講演②

「サステナビリティ経営をめぐる金融市場の現状」/講演者 足達英一郎氏(株式会社日本総合研究所フェロー)

パネルディスカッション

モデレーター:加賀谷哲之教授(経営管理研究科)
パネリスト:
梶昌隆氏(味の素株式会社 理事 IR室長)
山我哲平氏(株式会社みずほフィナンシャルグループ サステナビリティ企画部 担当部長)
古布薫氏(インベスコ・アセット・マネジメント株式会社 運用本部日本株式運用部ヘッド・オブ・ESG)
瀧澤昌隆氏(EYジャパン株式会社 マネージング・パートナー/マーケッツ 兼 EY Japanチーフ・サステナビリティ・オフィサー)

閉会の辞

早瀬慶氏(EY Asia East / Japan クライアント・アンド・インダストリー・リーダー EY Japan チーフ・サステナビリティ・オフィサー)

後記

加賀谷哲之教授(経営管理研究科)

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今回、一橋大学創立150周年記念シンポジウムでは、大学あるいは研究コミュニティで蓄積されたサステナビリティ経営についての知見を世の中に発信することによって社会課題の解決をしていく、あるいは社会に貢献していくということをしっかりと訴求することを目的としています。「なぜサステナビリティ経営が必要なのか?」というのは環境社会問題が深刻化する中で、この問題に真剣に取り組むべきだという論調があり、短期志向経営を進め過ぎないという観点でもサステナビリティ経営を進展させていく必要があるのではないかということがあります。サステナビリティ経営そのものは、まさに企業が今迫られている課題です。課題であるにも関わらず、日々の業績を優先せざるを得ないような、そんな状況に追い込まれるケースも少なくありません。その背景として、ESG業績と企業価値の因果関係が確たるエビデンスをもって証明できていないという現実があります。研究コミュニティにおいては既に多くの研究の蓄積がありますが、近年では経営の時間軸やESG取組みのプロセスなどについて、より解像度を上げる研究が進められています。こうした私たちの研究上の知見などもフィードバックをさせていただきながら、今後サステナビリティ経営の価値創造ストーリーをいかに構築していくべきなのかということについて、皆様と共に考えていきたいと思います。

今回のパネルディスカッションでは、非財務インパクトを企業価値に結びつけるというテーマで、大変ハードルが高い内容ではあったかと思いますが、パネリストの皆様の高い問題意識もあり、多くの知見を得られたかと思います。特に重要だと感じましたのは自社のサステナビリティの取り組みとして、何を長期的にやるべきかという問題を絞り込み、可視化をして継続的に進めていくこと。またそれは一人だけでは実現できないので、大きなネットワークの中での実践が益々重要であるということです。本学では学部・MBA向けにEY ジャパン寄附講義「サステナビリティ経営」等を通じて若手リーダーの育成をしているほか、MBA生や社会人を対象に一橋大学サステナビリティ経営研究会というコミュニティで四半期に一度討議をする場を作らせていただいております。またエグゼクティブプログラムを一橋大学CFO研究センターに設置し、一橋大学GX/SX経営人財育成プログラムでは、企業でサステナビリティや経営企画・IR等を担当されている執行役員、管理職、参謀役の方に向けて、持続的な企業価値創造の実現をけん引するサステナビリティ・リーダーの育成を図っています。今後もサステナビリティ経営についてしっかりと研究をし、日本企業が持続的に取り組むべきテーマとして浸透させていきたいと思います。

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