【一橋大学の科研費研究】「境界駆動理論の妥当性の検証および音声合成への応用」/古川 慧(経営管理研究科 講師)

2025/09/11

科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金/科学研究費補助金)は、人文学、社会科学から自然科学まで全ての分野にわたり、基礎から応用までのあらゆる「学術研究」(研究者の自由な発想に基づく研究)を格段に発展させることを目的とする「競争的研究費」です。ピア・レビューによる審査を経て、独創的・先駆的な研究に対する助成を行います。研究者によるピア・レビューという検証プロセスの利点は、研究計画の妥当性を専門家の視点からより正確に判断できるほか、応募者にとって、同じ分野の研究者に自分の研究がどう評価されるかを知る機会にもなっています。このことは、とりわけ若手の研究者にとって一つのインセンティブになっているといえます。本学の研究環境は研究大学としての文化や風土が根付いており、新規課題採択率は、例年全国1位を獲得しています。

今回は、古川 慧講師の科研費研究「境界駆動理論の妥当性の検証および音声合成への応用」についてご紹介いたします。

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古川 慧

2024年に東京大学大学院総合文化研究科にて言語学の研究により博士(学術)の学位を取得し、2025年に奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)にてAI音声合成の研究により博士(工学)の学位を取得。2025年より現職。言語学と工学を融合させた先端的な研究に取り組んでいる。 言語学の分野では、音声学・音韻論・統語論を中心に、実験と統計分析に基づく自然科学的アプローチにより、イントネーションの生成メカニズムの解明に取り組んでいる。 工学の分野では、機械学習・AIを活用した音声合成技術に言語学の知見を応用し、話者の意図や感情をイントネーションに反映する音声合成モデルの開発を進めている。

研究テーマ:「境界駆動理論の妥当性の検証および音声合成への応用」

研究期間(年度):2025-07-31 - 2027-03-31  研究種目:研究活動スタート支援  審査区分:0102:文学、言語学およびその関連分野

研究計画:

本研究の目的は、日本語イントネーションにおけるダウンステップの真の原因を明らかにし、言語学的知見を音声合成技術に応用することです。従来は「アクセントがダウンステップを直接引き起こす」とする仮説が支配的でしたが、申請者はこれに異を唱え、「音韻境界が介在することでダウンステップが生じる」という境界駆動仮説を提案しました。本研究では、この仮説を支持する音響的証拠を実験的に収集・分析します。さらに、得られた知見を用いて、統語構造や話者の意図といった情報をイントネーションに反映させる音声合成モデルを開発することを目指しています。言語学と音声工学を融合した本研究は、音韻論の定説を再検討し、自然で意図を伝える音声生成を可能にする先駆的な試みです。