2025/09/09
2025年9月2日から5日に、西南学院大学で開催された日本経営学会第99回大会において、本学の大学院で研究者養成コースを修了し、博士の学位を取得した久保田達也さん(成城大学社会イノベーション学部准教授(現:教授))、大沼雅也さん(横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授)、積田淳史さん(成城大学社会イノベーション学部准教授)の3名が栄えある日本経営学会賞(論文部門)を受賞しました。(所属・職位は論文発表時のもの。)
この賞は、同学会において45歳以下の研究者の最も優れた論文に対して与えられるものであり、経営学の分野で高い権威をもつものです。今回、3名が受賞した研究論文は「専門家ユーザーによるイノベーションへの関与と障壁:医師を対象とした実証分析」と題するイノベーション論の研究です。
技術革新のようなイノベーションはどこから生まれるのでしょうか。それを開発者の力だけではなく、その製品を使用し、評価できるユーザーの支援に求める考え方があります。これはユーザーイノベーション研究として、多くの研究者の注目を集めてきました。しかし従来の研究では、主にホビーストのような自律性の高いユーザーが注目されており、組織や集団に属した職業的な専門家ユーザーに焦点を当てたものは多くありませんでした。またユーザーの貢献を促す要因ばかりに目が向いており、ユーザーの関与を妨げる障壁についてはほとんど顧みられることはありませんでした。
そこで本研究は、医師に対する詳細なインタビューや広範囲にわたるアンケートを用いて、医師が医療機器の開発に関与する実態を解明しました。とくに本研究の独自性は、医師の関与を妨げる障壁に着目し、統計的な方法によって、それが評価の欠如(昇進につながりにくい)であるのか、資源の欠如(時間・資金・設備がない)であるのか、あるいは適合性の欠如(専門知識が活用できない)であるのかを緻密に分析したことにあります。
その結果は事前の予想を覆すものでした。分析結果からは実は評価や適合性は大きな問題になっておらず、資源(とくに時間)こそが重大な障壁である可能性が明らかになりました。医師などの専門家ユーザーは、医療機器開発への協力のような自主的な活動に対して、時間や労力配分をめぐって強い葛藤を抱いている恐れがあるのです。ここからは、組織に属する専門家ユーザーによるイノベーションを促進するためには、努力を正当に評価することや専門知識のマッチングを改善すること以上に、時間配分等のスケジューリングの自律性を支援することが鍵になるという洞察が導かれます。これは既存研究が見落としてきた重要な論点を指し示すものであり、ユーザーイノベーション研究を大きく進展させるものです。本論文は、以上のような学術的な発見や分析によって、高く評価されました。
経営学研究のさらなる発展に向けて、久保田さん、大沼さん、積田さんの今後の御活躍を祈念いたします。