2023/04/24
多くの本を読んできましたが、この一冊とするならば本書を挙げたいと思います。この本は国際政治学の古典として有名ですが、経営学やその他の社会科学を学ぶ学生・院生にも多くの示唆に富むものです。本書は1962年10月、米国とソ連の間での全面核戦争の一歩手前にまで緊張が高まったキューバ危機を題材としています。
ソ連はなぜキューバにミサイルを配備したのか、なぜ米国はそれに対し、海上封鎖で対抗したか、なぜソ連は最終的にミサイルの撤去に合意したのか、これらの問いが事例研究(ケーススタディ)で分析されます。
本書の驚くべきところは、同一事件に対する事例研究が3つ書かれていることです。一つ目は合理的アクターモデル、二つ目は組織行動モデル、三つ目は政府内政治モデルを用い、同じ事件が、異なる社会科学のフレームワークによって分析されます。それらが示唆する結論は 、相当異なるものであり、読者は光の当て方によってキューバ危機が異なって見えることに衝撃を受けることでしょう。
残念ながら21世紀になっても核の脅威は続き、各地で戦火はやまず、武力で他国を蹂躙する国があります。なぜ国家や軍はそんな意思決定を下してしまうのか、ぜひ本書の分析の衝撃を感じてください。
【Information】一橋大学附属図書館
G. アリソン,P. ゼリコウ(漆嶋稔訳)(2016)
『決定の本質:キューバミサイル危機の分析 第2版』 I・II,日経BP.