2023/07/20
高校生のとき、遠藤周作の小説に夢中になりました。きっかけは、従姉から「不憫でならない」と手渡された『女の一生 一部・キクの場合』です。本書は、長崎が舞台で、幕末から明治のキリシタン弾圧の話です。それまで読んだ本にはない、人間の汚さ、狡さが描かれ、しかし真摯さや信念もあって衝撃を受けました。それから二部・サチ子の場合を読み、『沈黙』、『わたしが・棄てた・女』、『彼の生きかた』、『深い河』など読み漁りました。
本書を読んで5,6年後、芸術新潮で「遠藤周作『沈黙』のふるさと 長崎 切支丹ジャーニー」という特集がありました。遠藤周作ファンの友人と長崎を訪れ、芸術新潮を頼りに小説の舞台や遠藤周作のゆかりの場所を回りました。外海町(現・長崎市)の遠藤周作文学館も行きました。そこで触れた遠藤周作の日本におけるキリスト教信仰の深慮と、文学館から観えた外海町の海を、いまでも鮮明に憶えています。
当時は、研究者になるとは露程にも思っていませんでした。いま思えば、心深くに響いた本が動機になって、小説の舞台と作家の足跡をたどる旅をしたという点で、本書は私の研究の礎と言えるかもしれません。今年は、折しも遠藤周作の生誕100年にあたります。私にとっても、この記事の依頼を受け、改めて研究の初心を思い出す年になったと思います。