HYI trainee プログラムと本庄奨学金の受給者に!経営管理研究科博士後期課程4年・于雷(ウ・ライ)さん②

2023/07/06

HYI(ハーバード大学イェンチン・インスティチュート)traineeプログラムは、アジアの若手研究者のための研修プログラムで、全世界から20名が選ばれ(本学からは初)、トレーニングプログラムをクリアした後、次のステージへと進みます。本庄奨学金(公益財団法人本庄国際奨学財団外国人留学生奨学金)については、2022年度春の募集では約600名の応募者の中から7名が選ばれるという超高倍率で、さまざまな分野の受給者がいる中、唯一の経営分野の受給者として選ばれました。

博士課程に入学、本格的に研究者を目指す

私が所属しているイノベーション研究センターでは、どのゼミに参加しているかに関係なく、この人を一橋の研究者として世の中に送り出すという先生方のお気持ちが伝わってきて、学生に対する愛を感じています。一般的には自分の研究テーマが指導教員の専門分野ではないときは、「この研究をやるのは無理だろう」という先入観を持ってしまいますが、一橋の良いところは、「あなたがその研究をしたいのであれば」と、ほかの先生方も協力してくださるところです。こうした主ゼミ、副ゼミの先生方の指導を受けて、国内外の学会やワークショップ※1に積極的に参加しています。もちろん、事務所の方にも日ごろからさりげないサポートをしていただいて、一橋のファミリーみたいです。

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ゼミ合宿で訪れた野口英世記念館

私の副ゼミは、パドロン=エルナンデス・イバ先生のゼミなのですが、一度、特許ご専門のカン・ビョンウ先生にも副ゼミで見ていただいたことがあります。カン・ビョンウ先生にメールをして、半年間先生のゼミの中で「こんなことを勉強したいです」とご連絡をしたら、すぐにお返事をいただき、「いいじゃないですか。来てください」と言っていただけました。私の扱っているデータは、特許とは関係ないのですが、でもおそらく今後のトレンドになるし、マスターしていかなければならないと考えたんです。するとカン先生は、私のためにこの半年間のゼミをデザインしてくださいました。私だけではもったいないと思って、ほかのゼミ生にも声をかけて、後輩も誘って一緒に学びました。そして、先生同士の連携も密に取られていて、今彼らにこういうことを教えていますが、何か調整が必要かなども確認をしていただいているようです。最初の面接で感じた、「この学生が将来研究を成し遂げるためのアドバイスをくださっている」という印象が、修士、博士課程を過ごす中でどんどんと強くなり、やはり一橋は私が考えていた通りの大学だった、入って良かったと実感しています。今後、日本のアカデミア、学術の世界で活動するためにも、一橋で学んできたのは間違っていなかったと思います。

余談ですが、軽部先生は学生の写真をよく撮ってくださるんですが、撮影の際にはいつも特定のシチュエーションをテーマとして楽しんでおられます。以前、野口英世博物館に行ったときには、「いつかノーベル賞を取る心構えで写真を撮ろうよ」とユーモアたっぷりでした。先生と色々なところへ出かけると、どんなことでも本当に詳しく、たくさん教えてくださる。研究のことだけではなく、プライベートなことまで色々と気にかけてくださる頼もしい存在です。そんな素敵な人たちとの出会いがある一橋は最高です。

新たな挑戦、HYI traineeプログラムと本庄奨学金

これまでも、こうしたプログラムに関して興味があり、探してはいましたが、応募するまでには至りませんでした。今回のハーバードの募集は、自分の博士論文と一致している「中国の制度の変化につれて、我々は今後どうすればよいか」というテーマだったのですが、ハーバード大学イェンチン・インスティチュートという狭き門なので、最初から諦めていました。副ゼミのイバ先生にそれを話したところ、「資料を提出しても損にはならないでしょ」とおっしゃられて、早速、推薦状を書いてくださいましたし、軽部先生からも「絶対行くでしょ、あなたは自分で取りに行きなさい」と、本庄奨学金についても推薦状書くからと背中を押してくださいました。こうした先生方からの鼓舞激励を受け、私はどちらのプログラムにも応募し、幸いなことに選ばれました。

HYI traineeプログラムでは、ハーバードの先生方から研究のアドバイスをもらうとともに、発表する場もあると思います。参加者には社会科学の人たちだけではなく、色んな分野の人もいると思いますので、交流、コミュニケーションを通じて、自分の研究はさらに広い範囲でどのようなインプリケーションを与えることができるのかを改めて考えるチャンスになると思います。私は、企業経営について自分なりの発見と、これからの提案について発表します。一般の人も参加したパネルディスカッションもあるようですので、今からとても楽しみにしています。

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本庄国際奨学財団の震災地ボランティア

本庄奨学金に関しては、ぜひ一橋の学生には応募してもらいたいです。これまで奨学金を受給されたOB・OGが総出で、採用した学生を研究者として育てようと、色んな活動やイベントを月1回ペースで設定してくれています。昨年は、私たち外国人留学生に日本のことを知ってもらおうということで、岩手県立大学が主催している国際ボランティアプロジェクト"水ボラ" ※2で、東北の被災地へ連れて行っていただきました。震災以降、現地はどうなっているか、自分たちに何ができるのか、という話がありました。本庄奨学金の母体である株式会社伊藤園としても復興支援に取り組んでいますが、私も自身の研究で、将来人のために何ができるのか、と考えたいです。本庄奨学金には研究者に対する色んな支援や先輩方と交流するためのコミュニティー・サイトもあり、何か質問するたびに必ず答えてくれるんです。奨学金は、受給期間が終わってしまうと繋がりが希薄になってしまいますが、本庄奨学金の先輩の中には、大学で研究を続けている先生方もいらっしゃって、ご自身の研究について「今はこういう研究をしているので、興味ある人は連絡して」とか、説明会や報告会などを通じて交流があります。いつか私からも何か発信できればと考えています。

留学の意義と研究

「留学」というと、一般的には外部の世界をもっと知りたいと思って行くと思いますが、私が留学して感じたのは、留学は外部の世界を知りながら、今まで自分が所属した国、所属した社会のことを、もっと詳しく知るための機会になるということでした。今まで中国で生きてきて、何も気にせず生活していたことが、日本に来て初めて、ここが不思議で、ここが面白い、と思うことがあります。日本への留学は、実は中国を知るためのものだったんだと気づきました。私の研究もそこから始まっていて、改めて「社会主義」と「資本主義」の違いを見出します。日本では市場に対して政府からの介入がなく、市場のメカニズムに任せて運営するという考え方である一方、中国は真逆で政府がすべてに対して介入し、計画するという計画経済です。中国では、企業もすべて政策に従って運営するのが大前提です。このような異なるメカニズムが存在している中で、各企業はどう経営のかじ取りをすればよいか、もちろん日本企業にも中国企業にもそれぞれのロジックがあるから、そこが私の研究対象だと思ったのです。政権の変化や中国政府が外部環境との対話を通じて変化していく中で、特に中国の民間企業が、どのように政治と対話をしつつ、不確実性に対応するかという研究をしています。このテーマは、日本に留学したからこそできたテーマだと思います。研究の成果を中国国内の研究者に伝えると、確かに国外にいる人ならではの視点だと言われますし、日本や欧米の学会では、これは中国を知るためのいい材料だと、高評価を受けています。

後輩へのメッセージ

研究というのはどうしても最新のトピックに目が行きます。でも一橋が強調しているのは、最新の研究トレンドを追うのも重要ですが、古典的なところにもう一回戻って、メインストリームから考察するというところです。我々は、最新のメソッドをどう評価するのがいいいか、評価したうえで追うか、追わないかを考えるということができる、これも一橋ならではの発想だと思っています。そして、留学生の数やジェンダーなどの点では、一橋のダイバーシティは盛んでないと感じるかも知れませんが、むしろ私は、色んな考えの人が集まっている一橋には、ダイバーシティもあふれていると思います。また先輩との繋がりもあります。学会で挨拶をしたら、「ああ、なるほど、いまこういう研究をしているんですね。今度の発表も楽しみにしていますよ、期待していますよ」と声を掛けていただける。一橋の絆は強みですので、後輩の皆さんには臆せずに色々なことにチャレンジしてもらいたいと思います。

※1 これまでに参加した学会・ワークショップ:
2021年、The Strategic Management Society (SMS) E&S IG's Doctoral Research Lab(アメリカ)、The International Joseph A. Schumpeter Society 18th conference(イタリア)、National School of Development (NSD) Peking University Management workshop(中国)
2022年、組織学会2022年度研究発表大会(日本)、Society for the Advancement of Socio-Economics (SASE) 34th Annual Meeting(オランダ)、組織学会2022年度ドクトラル・コンソーシアム(日本)
2023年、Academy of Management(AOM)AMJ Paper Development Workshop(日本)

※2 震災によって緊急仮設住宅や災害公営住宅への入居を余儀なくされた地域住民に、ボトル入り飲料水を配布し、交流するプロジェクト。