「証券アナリストジャーナル賞」受賞インタビュー/縄田寛希さん(研究者養成コース博士号取得)①

2025/08/27

本学大学院経営管理研究科 研究者養成コースにて博士号を取得した縄田寛希さん(北九州市立大学 講師)は、本年度の「証券アナリストジャーナル賞」を受賞いたしました。受賞論文「四半期報告利益を用いた利益調整行動の分析」は、四半期ごとに開示される利益情報に着目し、経営者による利益調整行動の実態を検証しています。今回は、受賞の喜びと共に一橋での学びや現在の研究についてお話を伺いました。

証券アナリストジャーナル賞を受賞

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私は会計学やコーポレート・ファイナンスの分野で、ビジネス情報を反映した会計情報の作成と利用にかかわる人々の行動を研究しています。学部は横浜国立大学経営学部を卒業した後、一橋大学の研究者養成コースで学び博士号を取得しました。現在は北九州市立大学の経済学部で講師を務めています。一橋の大学院では、自分の研究に近い先生のところで学ぼうと考えていた時に、髙須悠介先生(経営管理研究科准教授)にご紹介いただいて、高須先生の師匠である中野誠先生(経営管理研究科教授)にご指導いただいていました。当時、先生は「君の好きな研究をやってみなさい」とおっしゃられていて、それが逆に厳しい教えでもありました。大学院の博士課程では、最短3年で博士号を取って修了しようと考えた時に、その期間でできそうな研究テーマを選ぶわけです。ですが、そういう研究テーマを先生のところへ持っていくと、「すぐできそうな研究だね~」みたいなことをおっしゃられるわけですよ。逆に、大変だし誰も分かってくれないだろうな、みたいな研究テーマを持っていくと、「なんか変なことをやってるね」とおっしゃられ、先生から楽しげにウキウキとした感じが伝わってきました。

今回の「証券アナリストジャーナル賞」の受賞論文については、修士論文を書く中でいくつか分析をやっていて、その一部を切り出したものになります。実際にその研究をやっていたのは5年ぐらい前で、ちょうどコロナ禍の一番ひどかった時期だったと思います。テーマである「四半期報告」については、実務的な流行でいうとちょうど去年の四半期報告書が廃止になったタイミングになりますが、学術的な盛り上がりでいうと論文を書いていた2020年頃だと思います。ちょうど第一次トランプ政権で、トランプ大統領もおそらく四半期報告を廃止したいという方針でしたので研究も盛んに行われていたのだと思います。今回の受賞を受けて、実務家の方には新しくて面白いね、と言っていただけるのですが、研究者側からすると結構見慣れた研究で若干の温度差はありました。我々は社会科学というか、世の中の制度とか仕組みとかの分析をしているのでやはり実務での現象ありきのところはあります。この四半期報告書の研究に取り組んだのも、最初に実務の側から「四半期報告はやめようか」というような議論が上がって、我々も研究をし始めたという背景があります。そして、研究者が分析をある程度蓄積している間に実務の方も話し合いがついて、四半期報告が廃止になったという流れでしたね。このように社会科学の研究というのは、実務ありきのスタートではあるのかなと思っています。

最新の研究は、「証券アナリスト」の行動についての研究

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国際学会での発表の様子

証券アナリストについての研究では、特に証券会社に所属して投資家に代わって企業情報を分析し、アナリストレポートなどを作成している人たちの行動の研究をしています。具体的には、アナリストが企業利益の予想を作る際に、例えば、決算情報や産業統計などどういう情報をインプットしていますかというところに着目しています。アウトプットの部分では「どういった企業分析のレポートを書いていますか」というようなことですね。また、たくさん文章を書く人もいれば、短くまとめる人もいます。企業の決算が発表されるとその日のうちにさらっと書く人もいますし、1カ月くらいかけて超大作を書き上げる人もいます。このように、アナリストは「どういった思考で予想を組み上げているのか」や「どういったインプットからアウトプットにつなげているのか」といった頭の中で考えるスループットの部分の研究をしています。

また企業のIR(インベスターリレーションズ:投資家対応)も面白い研究テーマかなと思っています。IR活動は一般投資家向けだけではなく、機関投資家であったり、アナリスト向けのIRもあります。そういった時によくある話ですが企業のIRミーティングには、その企業をカバーしているアナリストの方全員がその場に呼ばれるわけではなくて、一定の有力なアナリストだけが呼ばれることがあります。そこで「なぜ全員呼ばないんだろう」という議論だったり、「呼ばれる有力なアナリストってどういうアナリストなんだろう」とか、「機関投資家はIRミーティングに呼ばれるアナリストをどれくらい評価しているんだろう」など、そこからいろいろ研究ができるんじゃないかなと考えています。我々研究者は、第三者の立場から客観的に見ることができますので、アナリストと企業経営者のパワーバランスとかも面白いかも知れないですね。

研究者と教育者

現在、北九州市立大学では学部2年生向けに財務会計と会計学を教えています。簿記からもう少し発展していき、学問寄りの会計を学んでいただく講義となっています。学生に教える際には、学生たちの持っている知識と講義の内容を紐づけていく作業がなかなか難しいです。大学2年生の19、20歳くらいの学生だとビジネスとの接点や会計とも余りなじみがないですよね。ビジネスに関心がある学生だと、すでに持っている知識と紐づけていくことで割とすんなりと受け入れてもらえますが、何も無い状態からすべて築き上げていくというのには工夫が必要です。私は学部生時代に、教員免許を取得して高校の化学の先生になろうかと考えていたこともあり、その頃に受けていた教員になるための講義が役立っているようです。しかし、これまでの自分の学習体験だとか、学びを振り返ると「自分の興味関心」と講義が強く結びつくと記憶に残りやすいという気もします。その経験をもとに、「学生の興味関心と紐づける」という方法で教えているところです。今年の春から講義を受け持ち数カ月たちますが、これまで教えていただいた先生方の指導法も参考にさせていただいています。私はゼミも受け持っているのですが、少し中野先生っぽいスタイルかなと思っています。学部教育と大学院教育では若干違うとは思いますが、先生のように学生の興味関心を起点にして指導を進め、学生が失敗しないように細かくアドバイスをしていくというよりは、失敗してもいいからどんどんやってみようという感じで指導をしています。上手くいかなくてもそれも人生経験の一つになるのではないかと思っています。