2025/09/25
稲垣栄洋著(2022年7月)
『競争「しない」戦略』扶桑社新書
大学院修了以降、意識的に自分の専門分野とは関係のない多様な分野の本を多数濫読するようにしており、同じ本を読み返すことはあまりない。そこで、ここ数年内に読んだ中で、特に興味を惹いた本書を紹介する。
本書のタイトルは、『競争「しない」戦略』であり、まさに専門に近い経営学の本ではないかと思われるかもしれない。しかし語弊を恐れず言えば、そんな本なら私は読まない(仕事としてなら別であるが)。本書は、農学部の教授が、雑草などの植物の生き方について書いた本である。それなら、雑草が生え放題の庭と共生している筆者が雑草を何とかしたいと手に取った実用本かと思うかもしれないが、そうではない。本書は、競争しないでいられる環境を探して(「逆境」「変化」「複雑さ」によりニッチを作り)、しなやかに生きる植物の生存戦略の話である。そこには、同様に生物である人と共通する話が多く含まれている。医療界や会計学界からの「逆境」に耐えながら、時代環境の「変化」に助けられつつ、産業界とは若干異なる「複雑さ」を活用して、医療会計学という未開の地を耕してきた開拓者として、強い感銘を受けた。本書を参考に、自分に適した場所を開拓してほしい。