「研究者養成コース」の魅力――島本教授・藤原教授・安田教授・福地准教授に聞く②

2022/11/02

「研究者養成コース」の魅力――島本教授・藤原教授・安田教授・福地准教授に聞く

「深く考えることが好きで、とことん打ち込みたい人、研究者養成コースで待っています」

一橋大学大学院経営管理研究科の「研究者養成コース」は、企業や市場の研究に携わる専門人材を育成するコースであり、修士課程2年と博士後期課程 3年で構成される。博士号まで取得した卒業生のほとんどは大学教員になる。本コースの教育内容や特色、「研究者」という職業の魅力などについて、経営管理研究科の島本実教授・藤原雅俊教授・安田行宏教授・福地宏之准教授の四氏に語ってもらった。

【修士課程と博士後期課程の違いはどんな点にある?】
修士課程では研究の標準作法を身につけ、博士後期課程で研究者として自立する

研究者養成コースのうち、2年間の修士課程と、3年間の博士後期課程の違いはどんなところにあるのだろうか。島本実教授、藤原雅俊教授、安田行宏教授、福地宏之准教授は、それぞれ次のように語る。

藤原雅俊教授
藤原雅俊教授

藤原教授 「修士課程では、各専門領域における理論体系や相互関連性など"理論の地図"をしっかりと身につけてもらいます。これはいわば研究者としての基礎体力を養う段階で、そのため、ゼミ(演習)のほかに様々な講義科目を履修してもらいます。講義科目といっても、大半は演習に近い少人数の講義です。たとえば、私が担当する『経営戦略特論』では、経営戦略に関する論文や書籍を輪読し、その内容に基づく討議を行って理解を深めていきます。この講義で私が力点を置くのは、"研究の標準的な作法"を学んでもらうこと。論文を読む際に、その論文がどんなリサーチクエスチョン(研究課題、研究上の問い)に基づき、どんな分析手法を用い、どういう結果を導き出し、どのような将来展望を描いているのか。一連の流れをしっかりと理解してもらい、自分自身の論文執筆につなげていってもらうのが狙いです」

島本教授 「私の場合、ゼミにおいて修士1年生に対しては、古典をきちんと読める力、英語で正確にモノを読み解く力、それを日本語の文章にして正確に書く力などをみっちり教育します。もちろん、古典だけでなく、専門領域の様々なテキストも読んでいきます。2年生になると、いよいよ修士論文の執筆が本格化するので、ここでは、論文のためのリサーチや執筆に関する個別・具体的な指導が中心になっていきます。一方、博士課程になると、学生は研究者の卵としてほぼ自立できる段階に成長します。自分の研究分野の論文を読み込み、リサーチを行う。教員はそれが間違っていないかチェックし、発表させてコメントする。そんな指導をくり返します。内容が良ければ『そこを切り出して学会で発表しなさい』などとあと押しもします。3年目の最後に博士論文を提出して博士号が取れれば"免許取得"、将来を嘱望される若手研究者として巣立っていくことになります」

安田教授 「単純化して言うと、修士課程はすでにわかっていることをいかに自分のものとして身につけるかという段階です。他方、博士課程はまだわかっていないことをどう料理していくかという段階です。分野によって多少の違いはあると思いますが、私の担当する金融論の領域では、修士課程は学部の延長的な側面、つまり、基礎的な勉強の要素がまだあります。ただ、学部時代との大きな違いは、例えば数学的により厳密な方法を身につけなければならないことです。修士課程で築いたそうした土台の上に立って、博士後期課程の3年間では、自分でどう問題設定し、答えにどうにじりよるかに、軸足を変えていくことになるのです」 

福地准教授 「修士課程では一から教えますが、博士課程ではよりメンター的な役割を意識しています。博士に対しては、一人前の研究者としての自覚を持ってもらえるよう、学生というより研究者仲間の一人として接するようにしています。研究者の仕事は孤独で、研究テーマの設定から、データ集め、論文執筆、スケジュール管理まで、全部を自分で行わなければなりません。ですから、学生には、口を酸っぱくして『自分で決めなさい』と伝えています。指示待ちタイプではうまくいかないのです。一方、自走力が高い学生に対しては、手綱を引いたり緩めたりして、学生が一歩ひいた視点から冷静に自らの研究計画や論文構成などをイメージできるよう、指導しています」