「研究者養成コース」の魅力――島本教授・藤原教授・安田教授・福地准教授に聞く③

2022/11/16

「深く考えることが好きで、とことん打ち込みたい人、研究者養成コースで待っています」

一橋大学大学院経営管理研究科の「研究者養成コース」は、企業や市場の研究に携わる専門人材を育成するコースであり、修士課程2年と博士後期課程 3年で構成される。博士号まで取得した卒業生のほとんどは大学教員になる。本コースの教育内容や特色、「研究者」という職業の魅力などについて、経営管理研究科の島本実教授・藤原雅俊教授・安田行宏教授・福地宏之准教授の四氏に語ってもらった。

【研究者という職業の魅力とは?】
自由な意思で研究を行うことができ、社会への影響力も大きい

研究者という職業の魅力、とりわけ商学・経営学分野の魅力はどこにあるのだろうか。島本実教授、藤原雅俊教授、安田行宏教授、福地宏之准教授それぞれに伺った。

島本教授 「私は三点あると思います。私の専門の経営史は、過去の経営で経営者が危機に直面してどう悩んだかなどを追体験し、調べていく学問です。他人の体験を我が事のようにとらえて、『自分だったらどうするか』を考え抜くところが何よりも面白い。これが第一点です。第二に、インタビューを通じて、著名な経営者をはじめ多くの実務家の生々しい話を直接聞けること。このような機会があるのは、研究活動の醍醐味ですね。第三は、他の分野の研究者も同じだと思いますが、人に命じられて動くのでなく、自分で本当にやりたいことを長い時間をかけて作品に仕上げていけること。この三点から、研究者とは、大変恵まれた職業だと思っています」

藤原教授 「私の場合は、考えることが好きということが出発点です。学部時代に、アルバート・O・ハーシュマン『Exit, Voice and Loyalty』という本に出合いました。書名の通り、『Exit』『Voice』『Loyalty』という、たった三つのコンセプトを紡いで、複雑な現象をクリアに読み解けることに衝撃を受け、もっと深く考えてみたいと思ったのが研究者になったきっかけです。多様な経営現象の底流にあるものが何かを考え、『きっとこういう原理原則が働いているんじゃないか』と気づいて、その仮説から世の中を見直してみて、何かを見通せたときの面白さ。それが、研究者という職業ならではの魅力だと感じます」

福地宏之准教授
福地宏之准教授

福地准教授 「けっこう理屈っぽい子どもで生きづらかったのですが、研究者であれば、理屈をどれだけこねても怒られることありません(笑)。私の専門である経営戦略分野の面白さは、プレーヤーと直接、対話できること。自然科学の研究者であれば、研究対象は動物とかウイルスとか物理現象などであって、それら研究対象と対話することは不可能です。でも、われわれ経営学者の研究対象は『人』。ですから、『何を考えて、どういう戦略でやっているのですか?』などと相手に聞くことができます。人は誰もが何らかの企業や組織に関わっているので、その組織のマネジメントやリーダーシップ、あるいは集団の力学や組織設計などについて、皆、一家言ある。その意味で社会のあらゆる人が研究対象になり得るし、そのぶん影響力も大きい。そこに研究活動の意義を感じます」

安田教授 「自分は束縛されるのが嫌で、企業に就職するより、期限までに成果を出せればスタイルは問われない仕事のほうが向いていると思いました。私みたいなタイプには、たぶん研究の仕事は向いていると思います。私の専門の企業金融論(コーポレート・ファイナンス)はここ20年ぐらいで急速にスタンダード化され、学問体系の融合が進んでいます。様々な分野との接点があり、境界領域をどれでも扱える幅広さ、汎用性はとても魅力的です。最近は法学の先生と一緒に仕事をしたりしていますし、ビッグデータや機械学習、AIなどの分野との接点も増えてきています」  

【研究者の先輩として:教員からのメッセージ】
不安にならずに、ぜひ研究者養成コースを目指してほしい

修士課程進学を検討する際に、MBAコースか研究者養成コース(修士課程)かで迷った場合は、どう考えればよいのだろうか。また、研究者養成コースに向いているのはどんな学生なのだろうか。このコースへの進学を検討している学生へのメッセージを伺った。

藤原教授 「原理原則を深く考える点は、MBAコースも研究者養成コースもどちらも同じですが、その先が違う。深く考えた原理原則を実践に適用することに喜びを感じるタイプであれば、MBAコースに進み、その後のキャリア形成につなげていくことは有力な選択肢になります。他方、原理原則に立ち返ることそのものに興味を感じる学生、あるいは理論にこだわって、その理論を深化させ、より見通しの良いものにしていくところに価値を感じるような人ならば、研究者養成コースに進んでいただければ、きっと満足を得られる思います」

福地准教授 「研究者に向いているのは、『知的好奇心がある人』『考えることを楽しめる人』。研究には緻密さが要求され、アイデアを生む際には、生みの苦しみも伴います。けれども、純粋に研究そのものを楽しめる人であれば、そうした苦労、大変さもきっと乗り越えられます。社会科学では一人ひとりが独立した研究ができる。何をテーマに設定しても、どこまで考えてもいいのです。知的な自由度が高い点は、何ものにも換えられない魅力だと思います」

安田行宏教授
安田行宏教授

安田教授 「研究者の仕事は、とことん何かに打ち込みたい人の、ひとつの在り方です。極端に言えば、朝から晩までずっと同じことを考え続けていてもいい。すでにある答えを当てにいく『勉強』は得意でないけれど、まだ答えが見つかっていないことについて自分で考えていくことが好きな人、既成概念や固定観念に疑問を持っている人、そんなタイプの人に向いている面があります。通説を覆す、教科書を書き換えるような研究に挑む人が出てくるのを大いに期待しています。これからの研究者には行動力も必要です。日本での研究成果を世界に売り込みに行く、学会報告に世界中を飛び回る、そんなフットワークの良さも求められています」

島本教授 「ポスドクの就職問題が社会問題になる中で、将来に不安を感じる方もいるかもしれませんが、経営学や商学の大学教員ポストには一定の数がありますし、口幅ったい言い方になりますが、『一橋の研究者養成コースで学んだ』という実績は潜在的なアドバンテージになる思っています。自分の問題意識をはっきり定めて、きちんと取り組むならば、研究者に求められる資質・能力をしっかりと身につけられるよう、私たち教員は全力で指導していきます。ですから、自らの可能性を信じて、恐れることなくチャレンジしていただきたい。不安に思う点や迷っていることなどがあれば、いつでも気軽に、私たちに声をかけてください」