2026/04/28
一橋大学は2025年9月に創立150周年を迎えました。今回のテーマトークでは、150周年を記念して編纂された冊子『一橋大学150年の軌跡』に寄稿した、田中一弘教授と島本実教授(ともに経営管理研究科)が、商学部・経営管理研究科の歩みと次世代へのメッセージについて大いに語り合いました。(「商学部・経営管理研究科の歩み」もご参照ください)
一橋大学の気質
一橋大学の堅実さ
田中:一橋大学は、堅実な学風とよく言われます。一橋出身者は、派手ではないけど、そつなく着実に仕事をする人が多い、ということを企業の人たちからもよく聞いています。
島本:私は、それは流布されたある種の物語のような気がします。一橋のことをあまり知らない人が、思い浮かべがちなステレオタイプなイメージがあるようです。一橋大学を選ぶ人は、きっとそういう人に違いないというような...。しかし、そうした社会からの良い期待があるなら、そう任じて振る舞う人が出てくるのもわかりますけれども。
田中:ある意味ではそれが組織のカルチャーですよね。この大学、このキャンパスで過ごし、学び、先生や仲間とやりとりする中で、最大公約数的に涵養されていくものです。
島本:私は寮で学生時代を過ごしました。1980年代末の一橋寮には、個性豊かでめちゃめちゃな人がたくさんいて、その爆発的なエネルギーはすさまじいほどでした。ただ、彼らは就職して会社に入っていくと、不思議と立派なリーダーになっていくんですね。ですから、一橋生(いっきょうせい)が最初からみんなそつがないなんて、私は嘘だと思っています。
田中:一橋生の皆がみな学生時代からそうだったわけではない、というのはおっしゃるとおりかもしれません。これが会社であれば、採用するときに面接もあるし、その会社のカルチャーにあった人が選ばれる、少なくともカルチャーにまったく合わない人が応募してきたり、採用されたりということは起こりにくいでしょう。でも大学の場合は入学試験の成績順位で合格にするわけですから、「堅実な人ばかりが一橋を受験する」という前提を置かない限り、そうはなりませんよね。
島本:考えてみれば、実はいろんな個性がある人が一橋に入ってきて、仲間と語らい、カルチャーに触れ、興味あることを学んで、自分のアイデンティティを確立していく中で、やんちゃな若者時代を経て、堅実で有能な人材に成長していくということだと思います。堅実というのは、合理的な判断をして、非合理なリスクを避け、仲間と協力して組織に貢献する責任感をもつことを示しています。その点では、自己中心的で無責任な人間ではないという褒め言葉だと私は理解しています。
一橋大学の特徴
少人数教育・ゼミ
田中:本学の少人数教育やゼミの教育というのは、一橋らしさだと思うんですよね。私が商学部の学生だった時も、ゼミの準備にはものすごく時間をかけましたし、ゼミの仲間と過ごす時間が圧倒的に長かった。だから大学生活-正確に言えば、後期ゼミが始まる3年生以降の生活っていうのは、部活を除けばかなりの時間をゼミの準備が占める、という感じでした。特に私が所属していた経営学の伊丹敬之先生のゼミは、書籍としての出版を想定した卒論プロジェクトとかもあって、ゼミテン*1とは濃密な時間を過ごしました。
*1ゼミテン:ゼミナール受講生の意味。「ゼミナリステン」の略称
島本:学生にとってゼミは特別でした。ゼミには絶対に出席していました。私は、社会学部出身で平子友長先生のゼミで社会思想史を学び、その後、大学院から商学研究科(現、経営管理研究科)に進学しました。学部ゼミの思い出は数多くあります。友人の下宿で夜通し議論したり、私の留学*2先のドイツのケルンまで友人が遊びに来てくれたり。一橋では、卒業した後もゼミ単位でつながっていることが多いと思います。
*2一橋大学海外派遣留学制度による1年間の留学制度(https://international.hit-u.ac.jp/abroad/haken/)
田中:授業もだいたい同じゼミの人だと同じ授業を取っている。ゼミの時間だけじゃなくて、ほとんど、どの授業も同じゼミテンが取っているし、それから専門領域が重なるゼミですね。伊丹ゼミだったら、例えば同じ経営学の榊原清則先生のゼミとかの学生も、たいてい同じ授業を取っている。いま副学長を務めている加藤俊彦先生は榊原ゼミで、その当時から授業を通じて親しくしていました。ゼミが一つの塊になって、大学の中の学びのインタラクションができていたような気がします。
島本:商学部の学生の結束が固いことはよくわかりますね。
田中:ゼミへの所属を通して、一橋大学の一員であるという意識を強く持てると言うのでしょうか...。それに、一橋の卒業生だと聞くと、ゼミはどちらですということが話題になることはしばしばです。
島本:本当にそうですね。そういう少人数だからこそ生まれてくる、親しさみたいなものが学風に出ているっていうのは、これからも続いてほしいところです。これは自分がこの大学の教員になったときに、自分のゼミを全力でそういう場にしたいと考えたことともつながっています。ゼミの先生にしていただいたことを、自分の学生に返すことができるのは、幸せなことだと感じています。
教員のコミットメント
田中:商学部の教員は、自身が企業で働いた経験をもつ人もいますが、そうした経験がなくても、企業の方々、とりわけその中核になる人たちとやり取りする機会に恵まれていると思います。企業の人たちから見たら、「企業経営については実際に経験している自分たちの方がよく知っている」という思いがあるわけです。それは一面では紛れのない事実なのですが、そういう人たちに「なるほど、自分たちが気づいていなかったこんな見方や考え方があるのか」「自分たちの成功や失敗はこんなふうに理解すればよいのか」と思ってもらえるような示唆を与えなければならない。そういう気概をもって我々は研究をしているし、教育でもそこをすごく意識しています。
島本先生や私であれば、例えば上場企業の執行役員クラスの方が集まる「一橋シニアエグゼクティブ・プログラム」(本研究科が2002年度から実施してきた経営研修プログラム)で、事業の最前線にいる強者たちと丁々発止の議論をするわけです。そういう教員が、そこで得た知見や経験を活かしつつ、同時に、高校を卒業してすぐの人たちにも全力で教えているわけですね。ですから学生たちは、決して机上の空論を習っているわけではなく、実際、彼らが卒業して会社に入った時、上司がなるほどって納得できるような理論を今、学んでいるわけですね。それも単に講義を聴いたり本を読んだりするだけではなく、それをもとに自分たちで議論をしたり、課題に答えたりということをしている。そこの強みはやっぱり圧倒的じゃないかなと思います。教員が真剣に実社会とやり取りをしながら、さらにはアカデミックな研究の成果を引っ提げて、学部の教育にもコミットしているわけです。
島本:考えてみればぜいたくな大学ですよね。